試合会場でよく見かけてたりして、前から気になってたんだ。でも、相手は男だし、んなことはないよねーとか思ってたんだけど、うっかり合宿先でほら自覚しちゃったわけ。「破滅への輪舞曲だ。覚えとけ」とか言ってる超絶美形のお坊ちゃまへの淡い恋心をね。
いや、でもあれは面白かったなぁ。腹抱えて笑いたいのを堪えてる横で、立海の真田くんがすんごい真面目な顔して「たまらんスマッシュだな」とか言うから。あの表情動かさないで有名な柳くんが肩を震わしてたくらいだよ?俺の性格で大声で笑い出さなかったのは偉いと思う。
「で、話ってなんだよ?」
そうそう。話が途中で逸れたけど、山吹中学テニス部所属、千石清純14歳。現在、目の前にいる氷帝学園テニス部所属の跡部景吾くん15歳に恋してます。しかも、今までにないくらい真剣に。
「うん。それなんだけどさ」
そりゃもう、「好きです。付き合ってください」とかも言えないくらいに大真面目に。
「いつもみたいなくだらねぇ用事じゃないだろうな?」
前も、その前も、その前の前も、その前の前の前も、その前の前の(以下略)もくだらない用事で呼び出したわけじゃない。用事はすごく大事なもの、っていうか、一世一代の告白をしようっていうことなんだよ。
「あのね!」
「アーン?」
ただ毎回土壇場で言えなくなって、別の言葉に摩り替えてそのまま話が進むもんだから、くだらない用事になる、だけ、で・・・いや!でも今回は、前や、その前や、その前の前や、その前の前の前や、その前の前の(以下略)と同じ鉄は踏まない!!
「跡部くん!!」
千石清純、行きます!!
「つ、つき──」
よし。ここまで出たらもう勢いだ!!
「お待たせいたしました。コーヒーとクリームソーダになります」
「つきだしってお金かかるって知ってた!?」
「知らねぇよ。てか、つきだしってなんだ?ああ。コーヒーはこっちで」
「はい。かしこまりました」
ああ!ウェイトレスさんの馬鹿!!(可愛いけど!!)
それから、俺はつきだしについて語り、居酒屋について語り、未成年でスポーツしてるのに酒を飲むのはいけないと説教され、よもや煙草なんかは吸ってないだろうなと睨まれ、最後に、
「やっぱりくだらない用事じゃねぇか」
と言われました。
「うん。そうだね。ごめん・・・」
自分のあまりのへタレさには元気が売りの千石清純14歳もいい加減に凹みます。でも、俺の酷い凹みように跡部くんがちょっと心配そうな顔をしてくれました。今日は少し幸せだったので良しとして、次回こそは頑張ろうと思います。
神田 なつめ