俺の恋人はモテる。
本人は自覚していないかもしれないが、話は面白いし、顔はそこそこだし、本当は優しいし。それでなくとも生徒は教師に何かしら憧れを感じていて、周りの教師より年が若いとくれば、モテない方がおかしい。
それなのに、本人はそれを自慢するような態度を取るから性質が悪い。本当に俺の気持ちを理解しているのか怪しいところだ。
「先生」
昼食のための昼休み、生物準備室で熱心なファンにお弁当を届けられた彼は俺の呼びかけにニヤニヤとした笑みを返した。
「またよろしくね〜」
彼が言うには、栄養が偏りがちな独身男へのボランティアらしい。
「それだけじゃねぇだろ」
「ん、青春の味ってか?」
いつまでたっても彼は俺の求めていることを口にすることはない。昼休みにわざわざこんなところまで来て目を光らせている俺を、彼は面白がっているのだ。
「ずるい……」
すべて知っているくせに、俺を振り回してばかりの彼。
性悪で卑怯な俺の恋人。
俺の恋人はモテます。
どの学校にも1人くらい居る、成績優秀・スポーツ万能・容姿端麗の学園の王子様的存在。それでなくとも他の生徒が何かと問題のあるZ組では掃き溜めに鶴で、モテない方がおかしい。
それなのに、本人にいたってはまったく自覚がないので性質が悪い。本当に俺の気持ちを理解しているのか怪しいところだ。
「土方くん」
授業の終わった放課後、廊下で後輩の女の子に待ち伏せされていた彼は俺の呼びかけにびっくりしたような眼差しを寄越した。
「じゃあな、マネージャー」
彼が言うには、本日の活動休止を伝えに来てくれたらしい。
「それだけ?」
「……そうですけど?」
いつまでたっても彼は俺の言わんとしていることを読み取れない。メールでもいいはずの報告をわざわざ待ってまで直接伝えに来る意味に、彼は気付いていないのだ。
「ずるいね」
何も知らないくせに、俺を振り回してばかりの彼。
鈍感で卑怯な俺の恋人。
春日 凪