年の瀬が近付くにつれて、土方の仕事は多忙を極める。歳末特別警戒だなんて、まるで一種のイベントのようじゃないか、そんな文句を口にすると、彼も「お前だって忙しいくせに」と拗ねてみせた。その仕草が不覚にも可愛かったので、(乗せられているような気もするが)12月に入り連絡さえぴたりと止まった彼を咎めることはしなかった。土方が言うように年末は万事屋だって稼ぎ時なのだ。
昼間に大掃除の手伝いの依頼を2件こなした銀時たちは、さすがに疲れ果て早々に布団へ潜り込んだ。神楽は、その尋常ではない力こそ役に立つが、落ち着きがない分、さらに仕事を増やす危険もある。高価らしい装飾品を壊して報酬がチャラになった2件目を考えると、明日の朝イチの仕事は神楽を外したほうがいいと判断出来た。一人だけ外すとなると彼女はきっと怒るだろうが、それは仕方がない。この万事屋の経営を完璧に把握している新八曰く、このシーズンに稼げるだけ稼いでおかなければ、正月が無事に迎えられないのだそうだ。
珍しくオーナーらしいことをしていると、妙な満足感に包まれながら銀時は眠りに落ちた。



どれほど眠ったのだろうか。眠りと覚醒の境界をふわふわと浮かんでいた銀時に、どさり、と何かが覆い被さってきた。定春ほど重くもなく、神楽ほど軽くもない、その重みはよく知っているものだ。
ゆっくりと目を開けると漆黒の髪が鼻先を擽った。
「急に何?……土方」
「お前鍵空いてたぞ。不用心だ」
銀時の肩に顔を埋め呟く。触れる肌は冷たいのに漏れる息は熱くて銀時の耳朶を湿らせる。
「忠告どうも。で、それを言いに来ただけ?お前勤務中だろ?」
土方は隊服を纏ったままだった。おそらく夜回りに出ているのだろう。この時期の夜のかぶき町なんざ事件が起こらないほうが非日常だ。
「それは終わった…。だから仮眠させろ…」
屯所まで戻る時間が惜しいと呟く土方の声は、疲労の色が浮き出ていた。彼もわかって真選組に居るのだろうとは言え、さすがに同情せざるを得ない。銀時は土方の冷えた身体を布団の中へと招き入れた。
「この時期の万事屋の相場は高いぜ?」
「オーケー。このぐらいか?」
端を上げた唇に軽く他人の体温が触れる。一瞬で離れたそれは土方の唇だった。
「おいおい、宿代がキスひとつってどんだけ安いんだよ」
「逆だな。俺のキスが高ぇんだよ」
そう言うと土方はゆっくりと目を閉じた。長い睫毛を見つめているとすぐに寝息が聞こえてくる。
「ったく……お疲れさん」

前言撤回。明日の仕事はやはり神楽が必要となりそうだ。


(グッナイ、スウィート)

春日 凪





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