趣味が糖分摂取などと馬鹿げたことを言う担任は、担当教科である生物準備室に小さな冷蔵庫を持っている。本来は、熱に弱い薬品などを保管するためにあるらしいが、今となっては生菓子の箱が占拠していた。本人が買ってきた物もあれば、物好きな生徒がプレゼントした物もある。冷蔵庫だけじゃなく、机の引き出しにはチョコや飴が瓶詰めされているし、簡素なコーヒーメーカーの隣にはコーヒー豆の量の倍以上に砂糖が置いてある。
たかが生徒。
それなのに、今日の冷蔵庫の中身だとか、コーヒーに砂糖は6杯だとか、知らなくていいような知識ばかりが増えていく。

「土方ァ、冷蔵庫のやつ出して」
掛けていた眼鏡を机に置き、うん、と伸びをした担任は、パソコンのディスプレイから目を離した。
「何で俺が…」
ここには進路相談という名目で呼び出された。かと言って、過去にそんな話をしたことのない俺は、いつものように窓際で煙草を吹かしていた。灰皿代わりのビーカーに吸い殻を増やすのもいつものことだ。
「今日は何処の?」
包装された箱を持ってくる途中でコーヒーメーカーのスイッチを押す。皿なんて洒落た物はないから、箱からそのまま食す。これも、いつものこと。
「駅前のポムエの苺ショート。土方はこっち、ベリータルトな」
女子みたいにスイーツの店に詳しくなった。これも俺には必要のない知識だ。コーヒーが出来上がって、俺のにはミルクだけ、奴のには砂糖を6杯いれた。
「砂糖なしでよく飲めるよなァ」
手掴みでショートケーキを口に運ぶ男は、苦笑しながらそう言った。ふわふわの生クリームを舌先で溶かして、まだ固い苺を噛み砕いて、甘ったるいコーヒーで流し込んで。
今、目の男の口の中はどんな味がするのだろうと、キラキラ光るタルトを頬張りながら考えた。


(さわってみたい、ふれてみたい)

春日 凪





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