まだ街の喧騒が聞こえる夕暮れ時。汚い路地裏の一角で、卑猥に動くふたつの塊。
一方は壁を背に膝をつき、もう片方はその影を覆うように向き合って立っていた。ふたりの間から響く、いやらしい水音と小さな呻き声から何が行われているのかは一目瞭然だ。
膝をついた漆黒の男――土方は下ろした瞼を震わせながら、眼前に差し出された滾る性器をしゃぶっていた。

「手、使うなって言ったろ?」
相手の男が乱暴に土方の頭を掴む。反らされた喉の更に奥に突きたてられ、身体が本能的に口腔を侵す異物を排他するように咳き込んだ。それでも男は性器を引き抜こうとはしなかった。 無意識に押し返そうとする喉の動きを、楽しんでいるかのように口内を蹂躙する。
「ぎ、ぎんッ……」
「うっせーよ、ホラ誰か来る前に終わらそうぜ」
見上げれば残酷な笑みを浮かべる銀時の顔があった。夕日に照らされ陰影が濃く映る。ゆるやかな弧を描いた唇が「ひじかた」と音もなく自分の名を呼んだ。
今、土方の口は言葉を紡ぐ器官ではない。彼の欲望を解放するためだけに卑猥に開き、飲み込む。言われたとおり、添えていた手を下ろすと行為を再開させる。
従順な態度に気を良くした銀時は掴んでいた髪の毛をそっと放し、代わりに労わるように頭を撫でた。さらりと艶やかな黒髪が彼の指先を擽る。
「ん、ふッ…うう…」
口内いっぱいに怒張した性器のせいで呼吸すらままならない。
「ッ、う…ンン」
零れ落ちる唾液が顎を伝った。それと同時に目尻に溜まった涙も零れた。苦しさゆえ無意識に浮かんだ涙ではあったが、朱に染まった頬を伝う一筋の煌きはとてつもなく淫靡に映る。
「くッ…、…」
銀時の熱がどくりと脈打った。自分の欲望が赴くまま腰を振り始めた彼に必死になりながら付いて行く。息が出来ない。しかし、放してはいけない。
「――ははッ、いい子。…じっと、して、ろよ…!」
献身的な土方の態度に銀時は喉の奥で笑う。弾む息に射精の予兆を感じ取った土方はいっそう強く吸い上げた。 だが、口内に受け止める覚悟をしていたこちらの予想とは逆に、銀時は射精の寸前に自身の性器を引き抜くと再び土方の髪の毛を掴み上げる。
「―――ッ!?」
直後に頭上で銀時が息を呑むのが聞こえた。彼が達したのだ。口の中ではなく、頭上で。
「………あ、」
信じられない出来事に、無意識に出た声は震えていた。
「……ふぅ、やーらしーの」
今になって怯えたように固まる土方とは対照的に、眼下に広がる卑猥な光景を見つめる銀時は満足気に唇を舐める。艶やかな漆黒の黒髪が己の残滓に穢されている様は、解放の余韻以上に気分を高揚させた。そして潔癖の気がある土方が自分の状況にどれほど嫌悪感を抱いているのかと想像すると、それは更に加速する。
「早く拭かねーと、固まっちまうぜ?」
銀時は自身を処理したポケットティッシュの残りを袋ごと放り投げた。消費者金融の広告が入ったそれは土方の目の前にぽとりと落ちる。けれど土方はぴくりともしない。
「ま、俺の知ったこっちゃねーけど」
屈みこんだ銀時の指が土方の顎を捕らえて、無理矢理に視線を上げさせる。
「ッ……!!」
こめかみのあたりから、つっと何かが零れた。考えるまでもない、髪に掛けられた銀時の精液だ。滑りを帯びたそれが、ひたひたと土方の頬を穢している。嫌悪の色を映した瞳がじわりと滲むのを確認して、最高の気分になった。
「じゃあな」
銀時は土方の渇いた唇を舐めると何事もなかったように街並みの中に姿を消した。

(宵待純潔インモラル)

春日 凪





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