今日は朝からラッキーだ。

学校へ行く途中に他校の女の子数名からプレゼントを貰った。 みんなすごい可愛い子で、少し恥ずかしそうに「これ貰ってください」なんて言ってくれて、そりゃ俺も「ありがと」って輝かんばかりの笑顔で言ってしまう。 学校に行ったら行ったで、上級、同級、下級と問わず、おめでとうの言葉をくれて、プレゼントもくれたり。南と東方にふふんと自慢したら、2人ともこめかみがぴくぴくしてた。 もてない男の僻みほど、見てて愉快なものはない。 勢いにのって、俺は珍しく学校に来てた亜久津にも大いに自慢してやった。

そしたら、あいつってば・・・!!

「本命に相手にされねぇ可哀想な奴の自慢ほど、見てて痛々しいもんはねぇな」
「な──!」
「図星か」

南と東方の「亜久津、それ禁句!」って焦った声が聞こえてきた。 これってどういうこと?おーけい、ちょっと落ち着こう。ここはひとまず訊きゃいいさ。

「・・・みんな、なんで知ってんの?」

ひょっとしてエスパー?

「跡部の奴に祝ってもらえてんなら、テメェはそれしか自慢しねぇだろうが」

あ、盲点。


今日という日付が変わってからというもの、実のところ俺は不幸のどん底だ。

『新着メール 0件』

待てど、暮らせど、問い合わせど、一番欲しい人からメールが来ない。 会う約束とかすらもしてないし、昨日辺りにはメールが来ると思ってたんだけど、一切音沙汰ないし、俺から連絡してもいいんだけど、それって誕生日なのにおかしくない? とか思って、どうにもする気が起こらなくてできてない。 変な意地だ。わかってるよ、それくらい。でも、たまにはいいじゃん!誕生日なんだし!!

・・・そうだよ、俺、誕生日じゃん。

「ふふ、ふふふ・・・」
「あ、千石が壊れた」
「俺、教室戻らないとー」
「煙草が切れたな」

そそくさと俺のもとから去って行こうとする3人。甘い。天津甘栗より甘いよ。

「俺、誕生日なんだ!今日!!」

右手で亜久津、左手で南(ちなみに南は俺に掴まれた瞬間、1人逃げようとした東方の腕を掴んだ)を掴んで、振り返った彼らに俺はにっこりと笑った。


「祝ってよ」


俺の誕生日パーティーは亜久津宅で催される事になった。ていうか、した。亜久津はごねたけど、あの家の実権を握ってるのは優希ちゃんであって亜久津ではなく。連絡したら一発でオッケーをもらえたのでもう俺の勝ちは確定した。しかも、優希ちゃんが許可したことにキレた亜久津が俺の電話を引っ手繰ったところ、

『仁!お友達は大事にしなさい!!』

だってさ。横にいた俺達にも聞こえてきたくらいの大音量。腹を抱えて笑ってると、すごい目で睨まれたけど、それを先読みしたかの如くの優希ちゃんの『千石君に酷いことしちゃダメよ』で、戦意がそがれたらしく、疲れたように亜久津は俺に携帯を投げて返した。
母、強し。

まあ、そんなこんなで開催された俺の誕生日会。俺が強制的に祝わせたもんだったけど、始まったら始まったで面白くて、みんな結構楽しんでた。酒も多少は入ってたしね。優希ちゃんはこういうとこはすごくフリー。寧ろ飲めって人だ。気づけば時刻は12時を過ぎて、そろそろお開きにしようかってことになった。

亜久津と優希ちゃんにバイバイして亜久津宅を出て、東方と別れて、それからしばらくして南と別れて、帰り道を星空眺めながら1人でふらふら歩いてて、酔いも軽く醒めてきたところで、

「って、跡部くんから結局連絡来なかったし!!」

誕生日になった瞬間にメールが来なかった事以上に傷つく事実に俺はようやく気づいた。


とぼとぼ家まで歩くこと5分。あとちょっとで家だ。あー、へこむ。マジへこむ。なんだよ。楽しかった分寂しいし、これじゃ本末転倒じゃないか。

「跡部くんのバカー」

とか、言えたらすっきりするんだろうかと思って呟いてみたけど、すっきりしなかった。ていうか、自分の声の覇気の無さに余計へこむ。俺たちって恋人同士じゃなかったっけ?好きだよって俺が言って、跡部くんはすごく不器用に笑って、跡部くんの家に行く回数が増えて、外にも2人で出かけるようになって、この間の跡部くんの誕生日は俺がはりきって祝って、なんで俺の誕生日に跡部くんは連絡くれないんだろ?

「俺、なんかしたかなぁ?」

どんどん顔が俯く。ちょっと、いや、かなり泣きそうだ。あんまりだ。愛されてないにも程がある。自信なくすよ。今度どんな顔して会えばいいんだろ?連絡くれないのって、やっぱり忘れられてるとかかな?跡部くんの誕生日のときにさんざんアピっといたし、跡部くんの記憶力は桁外れだから忘れるなんてことなさそうなんだけど。でも、そうなるとホントに連絡の1つもこないことがおかしい。もしかして恋人とか思ってたの俺だけ、とか・・・

「千石!」

え?と思って顔を上げた。跡部くんが家の方から走ってきてる。幻覚?いやいや、本物。何してるんだろう?てか、家の前にいたんだよね?もしかして俺のこと待ってたり?え。え。どうしたんだろ?だって連絡も貰ってないし、

「遅い!今まで何してたんだよ!?連絡くらいしろよ!!」

ぱーどぅんみー?

「し──」

なんだ、この人?

何言ってんの?

なんで俺が怒られないといけないわけ?

連絡しろって?

普通、逆じゃん。

ふざけんなっての!!

「知らないよ!跡部くんのバカ!!」

今日貰った袋にいっぱいのプレゼントを俺は怒鳴ると同時に跡部くんに投げつけた。割れ物とか入ってたかもしれないけど、そんなのもうどうでもいい。

「イテェ!なんで俺がキレられるんだよ!?」
「どう考えても、全面的に跡部くんが悪い!」
「なんでだよ!?俺はお前の誕生日のために家で用意して」
「だったらなんで連絡しないわけ!?跡部くんから連絡来るの、ずっと待ってたのに!!」
「自分からしろよ!」
「それはこっちの台詞だよ!」
「いつもならお前からするだろうが!!」

いつもって!いつもって何だよ!!

「今日はいつもとは違うよ!誕生日なんだよ!!」

11月24日は紛れもなく俺の誕生日。日付が変わってるってことはもう無視。

「たまには跡部くんから動いてくれたっていいじゃん!!」

俺の言葉に跡部くんは反論しようと思ったみたいだけど、口を開きかけて止めて、チッて舌打ちして俺から目をそらせた。これを引き金に、嫌な沈黙が漂いそうな雰囲気だ。いつもならすぐ耐え切れなくなって俺が謝るんだけど、今日だけは絶対俺からは折れない。絶対、折れないし、謝ったって簡単には──

「悪かった」

俺はだんまりを決め込んで、怒ってるってポーズのままで、跡部くんが珍しく困ったような顔をして俺の様子をうかがってくるから、

「愛してるって言って」

ちょっと困らせてやろうと思ったのに。


跡部くんはきょとんとして目をぱちくりさせて、それからふっと微笑した。それで、ゆっくり近づいてきて、俺の耳元に顔を寄せて、

「愛してる」

俺だって愛してるよ。ちくしょう。



神田 なつめ





愛してると言って