「跡部くん!俺と結婚してください!!」
「男同士でできるわけねぇだろ。北欧の国に国籍移す気か?俺はご免だ。バーカ」
本から目を離してくれたかと思うと、彼はバカにしきった顔(しかも少し憐れみを含んでいたような気がしたのは気のせいだろうか)で、僕を見て言った。
その日、僕はあんな彼でも日本人であることに誇りを持っていたのだと知った。
大衆にはあまり知られていないようだが、これでも立派なテニス部部長である南健太郎は、それを発見してなんともいえない顔をした。
なんというか、じめじめしている。カビでも生えていそうだ。
昨日まで何の変哲もなかったはずなのだが、一体何が起こったというのだろうか。
なんで、俺ばっかり・・・
などと思いつつ、南はこれからのことを考える。
一番の問題はそれが自分のイスの上にあるということだった。
一部層には知られているが、これでもモンブランなんていう可愛らしいものが好きなテニス部問題児部員であった亜久津仁は、それを発見してなんともいえない顔をした。
なんというか、色が悪い。確実にカビが生えているだろう。
昨日まで何の変哲もなかったはずだが、この一日が大きな変化をもたらせたらしい。
ったく・・・
と溜息をつきつつ、亜久津はこれからのことを考える。
一番の問題はそれに代わるものが亜久津にはないということだった。
問題解決の道を探しあぐねて、教室のドアの前で立ち尽くしていた南の肩に誰かの手が置かれる。そして、振り返った直後、
「おはよう。南くん。中に入らないの?」
元気な声で挨拶をしてくれたのは、笑顔が可愛いクラスメイトの女生徒。南のストライクゾーンど真ん中な彼女と南はそこそこ仲が良い。
「お、おはよう。うん。ちょっとね・・・」
しかし、そんな彼女の挨拶にも今の南はひきつった笑顔でしか答えられなかった。泳いだままの視線を自分の席のほうへ移し、目を丸くする。さきほどまでそこにあったものがなくなっていたのだ。
ああ。神様、ありがとう。あれはもう去っていったんですね。うんうん。よく考えたら、もうすぐチャイムが鳴る頃だし。
「南くん?どうかしたの?」
「いや、なんでもないんだ。さ、入ろうか」
なんてニコニコと笑って、敷居を越えた南だったが、ドンと何かにぶつかった。前も見ずに進んだせいで、誰かにぶつかったようだ。「悪い!大丈夫か!?」と慌てながら、前を向いて、南は見なかったことにしたいと強く思った。
「おはよう、南・・・」
自分が突き飛ばした人物は、この世の不幸をすべて背負っているかのような悲壮な顔で、それでも健気に微笑みながら挨拶してきた。
「お、おはよう。千石」
引きつりながら南も挨拶を返す。
嗚呼、やっぱり今回も巻き込まれるのか・・・
彼の嘆きは誰にも届かず、1時間目の予鈴の鐘は南に受難の始まりを告げているかのようだった。
千石の話が終わったのは昼休みになるころだった。朝の授業前から始まったというのに、よくもまあそれほど話せたものだ。聞かされた南がげんなりとしている横で、聞かせた千石はピカピカと効果音をつけて輝いていそうな笑顔だ。
「ありがと、南!話聞いてもらったおかげでちょっと元気になったよ!!」
「ああ。そりゃ、よかったな」
これで何にもならなかったなら、南は浮かばれない。千石の話を延々聞かされて、屋上なんて場所に連れて行かれたせいで他に何かをすることもできない。話の内容は酷くどうでもいいもので、これならいくらつまらない授業でもそっちの方がよほど役に立つだろうと、何度も溜息を漏らしたものだ。
「俺、もう1回跡部くんにプロポーズしてくる!」
進歩のない奴だ、なんて思うのはおそらく跡部も同じだろう、と南は思う。
「結婚できないなら、結婚式だけでもしてくださいって言うよ!!」
手を振りながら、去って行く千石の姿がちょうど太陽と重なって眩しい。
「あいつって何がしたいんだろう・・・」
千石はアホだからあんなに毎日が幸せそうなんだろうな、なんて思うのはおそらく跡部も同じだろう、と南は思った。
ところは変わって、亜久津宅。
しばらく亜久津はカビの生えたパンと睨めっこしていたが、
「コンビニで買うしかねぇな。わざわざ外に出るんだし、ついでに学校でも行くか」
出た答えは意外に地味なものだったが、何かが間違っている。
神田 なつめ
このキヨは結婚がしたいんだけど、結婚式もしたいらしい。
できないことはないだろうけど、この跡部ならしないでしょうな。
そして、またへこんだキヨは南の元を訪れ・・・エンドレス。
あっくんにとって学校はコンビニのついでです。
わー。意味不明だー。