今日は間違いなく、一生で幸せな日の10位以内に入る日だ。

なんと跡部クンが!あの跡部クンが!!

「ほら、できたぜ」

俺に手料理を振舞ってくれたのだ!!!

クリームソースのスパゲッティと聞いていたが、なんだかできあがりはカルボナーラ。 いや、しかしそんなことは気にしないさ。なんてったって跡部クンの手料理!

「いただきまーす」

一口パクリ。箸が進むか、進まないかと聞かれれば、もちろん進む。 まずいなんてことはない。

「で、念願の俺様の手料理はどうだ?」

跡部クンは期待の眼差しを・・・別に向けてるわけじゃない。 いいんだ。普通のカップルの関係を求めたりしないよ。跡部クンが淡白なのは昔っからさ。

が、しかし。俺は言う。普通のカップルの彼氏に倣って言う。

「おいしいよ」

もちろん最上の笑みを加えて。




正直な感想はまずくはないけど、おいしくもないってとこ。 でも、跡部クンが俺のために作ってくれたものだから、それだけで俺にとっては何よりなんだ。
キャ!キヨスミってば、乙女☆

「へぇ。そりゃ、よかったな」

跡部クンはフッと俺に笑いかけてくれた。ああ、もう今日はホントに幸せ!跡部クンが優し──

「お前の舌にはその程度で十分ってことか」

え?とか固まっちゃった俺。

「味見したときには、俺としてはまずくはないがうまくもなかったんだけどな」
「え、いや、そんな、」

ことはないよ、なんて続けたかったんだけど、跡部クンは俺の話なんて聞いてないみたいで。

「ぶっちゃけ、途中で分量を量るのが面倒になったんだよ。 樺地とかテニス部の奴らに作るなら、真面目にやろうとも思ったんだが、相手はお前だしな」

待ってくださいよ、跡部クン。 俺って君の彼氏だけど、樺地クンはまだいいとしても、 氷帝のテニス部の皆さんよりも下ってこと?

「で、目分量で適当にやってみた。庶民相手にしてもいくらなんでもバカにしすぎかと思ったが、 大丈夫だったみたいだな」

め、目分量?適当?それって手抜きってことですか?手抜きなんですか!?

「俺の繊細な舌なら、うまいなんて口が裂けても言えないが、お前の庶民の舌が満足ならそれはよかった」

ポンッと肩に手が置かれる。

「ま、こんなんでもよかったら、また作ってやるよ」

ああ、跡部クン。 そんな珍しいくらい優しい微笑みは嬉しいけど、 世の中には知らない方が幸せなことがたくさんあるんだよ・・・。

「うん。ありがとう」

俯きたかったけど、下を向いたら目から汗を流してしまいそうなので、 頑張って跡部クンを見上げて、俺は笑った。


嗚呼。跡部クンの本音を聞きさえしなかったら、俺はきっと世界で一番幸せな人間だったよ・・・


神田 なつめ



あー、キヨが可哀想。メンゴ☆
珍しく自分で作った晩御飯のパスタがそんな出来だったので、いっそネタにしようと思った。 (もうまっとうには生きられない人間になってしまっている)
でも、跡部は料理うまいよねぇとか思ってたら、こんな話に。
跡部は面倒見が良いと思うので、乞われれば文句を言いつつもご飯とか作ってくれると思う。
キヨは跡部に適当に扱われています。 大事だけど適当です。大事なんですよ、きっと。信じてあげて。



そんな彼の愛情手料理