時計の指針はもうすでに11時を回った。
毎年恒例であった身内だけのパーティも、明日が平日だと言うこともあってすぐに抜け出してきた。どうせ今週末に対外用のものもある。そっちでは確実に拘束されるであろうから、今日くらいはゆっくり休ませて欲しい。
学校でもらった大量のプレゼントは執事に任せた。もう毎年のことなので、うまく処理してくれるだろう。だが、今年は格段に量が多かった。きっとあれだ、関東大会だ。手塚との白熱した試合はファンをまた増やしたと聞いた。チームとしては敗退したが、あれは伝説になったらしい。
あの場にいた、選手は、自分も手塚も、氷帝のレギュラーも青学の選手も、あの試合をただのかっこいい試合でなんて認識してない。あれは特別だ。目立つことが好きな自分が、魅せる試合ではなく、がむしゃらにボールを追った。
目を閉じると、鮮明にあの夏が思い出される。
もう2ヶ月が過ぎようとしているのに、とてもリアルだ。
夏。暑い夏。白いラインに黄色のボール。空は真っ青で、緑の芝がきらきらしていた。
そして、オレンジ。
「………」
去年の夏には無かった色。でも今年はたくさん見た。太陽の光を浴びて、星空の下で闇に浮かんで、突然の雨に襲われて。全部色が違うことを発見したのも今年。
そして、
「遅ェ」
「メンゴ、メンゴ〜!ってバレてたのっ!?」
跡部の自室のすぐ下の、窓から覗くときの色。
「何やってんだ、不審者」
「石でコンコンって、ドラマみたいに格好良く演出するつもりだったんだよ?なのに、君んちの庭、石ころ一つ転がってないんだもん」
「当たり前だ」
せっかく格好良く登場するつもりだったのにィ。
ぶつぶつ言う千石に、上から声をかける。
「さっさと来いよ。俺様は忙しいんだ」
あと1時間もないけれど。
「え、あ、待ってよ〜!!あ、でもその前に……」
すぐに上ってくると思いきや、その場所で急に両手を広げて笑う千石に不覚にも見とれてしまって。
「誕生日おめでと、跡部くん。君の生まれた日の、君の『今』を共有できることをホント、嬉しく思うよ!!――ありがとう。大好きッ!」
その台詞をそっくりそのまま返したい、うっかりそんな風に思ってしまった。
春日 凪
中学生が夜中に出歩いちゃいけません。