お前にずっと言おうと思っていたことがあると銀時は切り出した。土方は食事をする手を止めて、銀時を見る。なんだとばかりに土方が向けた視線の先には何かとてつもない苦痛に耐えるような銀時がいた。

銀時は目を閉じ一度大きく息を吸い、吐き出す。そして、意を決したように珍しく目をしっかりと開いて、土方を見据えた。

「お前の食っているそれはホットケーキでもなければ、小麦粉ですらない」

銀時の硬く重い声に周りにいた他の人間もまたごくりと息を飲む。ついに言ってしまったとばかりに手で顔を覆う者もいた。

「当たり前だ。これはホットケーキじゃない。ホットケーキ土方スペシャルだ」

しかし、当の本人は眉を少し顰めただけで、まるで使い古された名で呼ばれることが心外であるかのように答える。そういう意味じゃないだろうと誰もが思った。

「だから文頭にホットケーキを付けるなっつってんだよ!」

ガンと大きく銀時は机に拳を叩きつける。うんうんと周囲の人間は頷く。

「お前のそれはただのマヨネーズだってんだよ、この高コレステロール血症が!」
「マヨネーズの何が悪い?」
「マヨネーズに罪はない。あるのはお前という存在だ」

立ち上がり、びしりと指差してくる銀時に対して土方がしたことと言えば、ぴくりと片方の眉を動かすということだけ。相変わらずまったく動じていないその姿に、誰もが重度のマヨラーには何が悪いのか伝わらないのだろうかと諦めかけていたときのことだ。

「言わせてもらうが、」

土方は低い声で言いながら、静かにフォークを置いた。そしてゆっくりと人差し指を動かす。

「お前のそれはメープルシロップだろうが、この糖尿病」

全員の視線が銀時の皿へと向いた。メープルシロップの海に沈んだホットケーキはマヨネーズに埋もれたそれよりも存在感は薄かったが、標準を大きく外れていることに変わりはない。

「違いますぅー。ホットケーキにメープルシロップかけるのは普通のことなので、量が多かろうとホットケーキには変わりないんですぅー」

しかし、当の本人はしれっとしたものだ。店内にいる二人以外の人間の頭に浮かんだのは、似たり寄ったり、五十歩百歩、目くそ鼻くそを笑う、といったフレーズだった。

「ポテトチップスにチョコレートをかけるなんていう甘さと塩気の共演が実現し、かつ支持を得ている現代社会において、甘いものと塩気のあるもの、つまりホットケーキとマヨという組み合わせはもはや常識に近いだろうが」
「近くないから、全然。あの名店のあくなきチョコレートへの探求により生み出された一品をお前の狂った味覚によって生み出された食物兵器を一緒にするんじゃねーよ」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ白い頭と黒い頭。もはやBGMだと割り切って、食事を再開した方がいいという雰囲気が流れていたが、それもつかの間のこと。ヒートアップした銀時と土方が口喧嘩だけですむわけがなかった。

偶然にも散歩の途中に通りかかった神楽は定春の「わうん!」という一吼えに、可愛らしく首を曲げる。

「なんであの二人は毎回乱闘騒ぎになって立ち入り禁止の店を増やすだけなのに、一緒に食事するのかって?」

頷くように吼える定春。神楽はぽんぽんとその頭を撫でる。

「中身はガキのまま、外だけ大人になった二人の人間が恋愛をしているからヨ」

定春にはまだ早いアルかねーと呟きながら、神楽が通り過ぎた直後、ガラスの窓が割れる音が道路に響く。銀髪黒髪の二人組はお断りという紙が張られるまで、もはや1時間とない。



神田 なつめ



分かり合えない二人