ルールがあるから遊戯は愉しい。



我慢をすればするほど、焦らされれば焦らされるほど、先にある恍惚は限りなく増幅される。ずくずくに溶けた理性が身体を焼く感覚に酔う。それは何も自分だけではない。目の前に居る男も、もどかしい快感に陶然とした笑みを浮かべていた。
「は、ハァっ…あッ…」
土方の手は彼自身のスカーフによって後ろ手に拘束され、更に逃れられないように身体は壁へ押し付けられている。そんな彼を囲うように覆い被さっているのは銀時だった。壁に手をついて、土方の表情を舐めるように見詰めている。とうに熱に浮かされた顔は、彼が望んでいるそのものだろう。自分の浅ましさを揶揄するような色を含んだ視線に射抜かれて、土方は身体を震わせた。
ふたりの身体の間には、互いの息づく性器が悦びの雫を滲ませている。前を寛げた隙間から雄々しく反り立つそれらは、熱を帯びてからかなりの時間が経過していた。
「ン…、ぁ……」
体内を焦がす劣情に我慢がきかない。強請るように腰を緩く動かせば、銀時が小さく息を吐く。
「っ、まだ駄目だろ…」
それはこの戯れの終焉が、まだ先だということを示していた。互いの快楽を限界まで高め合うゲーム。その果てに訪れる最高の恍惚を得るための遊戯。
ルールはたったひとつ、互いに触れてはいけない。
薄く開かれた唇から零れる吐息も額に浮かんだ汗も鮮明に感じ取れるような至近距離を保ちながら、互いの体温を感じることは一切しない。絡むのは視線だけ。過敏になった感覚器は、纏う空気の細やかな流れさえつぶさに感じ取って、悦びへと変える。上昇する体温とは逆に鳥肌が収まらない。
「ぁ、…は、早く……」
今度は大きく腰を揺らして、刺激を強請った。互いの先端が触れて、電流のような快感を齎したが当然そんなものでは満足できない。手を使わない触れ合いは、何とももどかしくじれったくて、自然と涙が浮かぶ。それは銀時も同じようで、土方を制した割には彼の腰も刺激を求めて動いていた。脳が駄目だと指示を飛ばしても、もうそれに従うことなど出来ぬほど身体は快楽に従順になっている。陥落している。
「ッ、…あ、やぁ、も……」
土方は背に回した指先で壁を引っ掻いた。どんなに力を込めても、自分が望むような快感は訪れやしないと分かっていながら、それだけが唯一出来る術だといわんばかりにきつく爪を立てる。
「仕方ねーな、これだけ…、な」
銀時もまた限界を浮かべた表情をしながら、自身の指を顔の前に一本突き出した。立てられた人差し指に、彼はゆっくりと舌を這わす。指をまるで性器に見立てるように、執拗に緩慢に舌先で舐る。
「ッ…、アァ…、…」
無意識のうちに声が零れた。何もされてはいないのに、想像だけで身体中を快感が走る。どくりと脈打つ鼓動とともに性器から粘液がとろりと流れ落ちた。揺れる下半身は止まらない。だが、先程より量を増した先走りが滑ついて強い刺激が得られなかった。互いの性器は滑るばかりで、ますますもどかしさが蓄積していく。
「ン…、ふ、はぁ」
土方は思わず、銀時の指に舌を伸ばしていた。唇を合わせるのではなく、間にある指を一心不乱に舐め合う。時折触れる舌先が痺れるような感覚を生み出して、更にその行為に酔った。
ハアハアと荒い息を零しながら舌を差し出す姿は犬を連想させる。人間の特徴でもある理性をかなぐり捨てて、ふたりは獣に成り下がっていた。そうして得る悦楽は、人の想像をはるかに超えているのだ。まるで脳を侵す甘美なドラッグのように、幾度も際限なく求めてしまう。
「ハ、ハァ…ん、ふッ…」
どちらともつかない喘ぎ声が頭の中で反響している。開かれっぱなしの唇から唾液が滴って床に染みを作った。股の辺りも性器から零れた先走りでじんわりと濡れていた。しかし、そんな愚かな姿さえ今は気にならない。ただいつ訪れるか知れない最高の快楽だけを望んでいる浅ましい獣だ。
「ぁ…………」
そのとき、そっと銀時の指が下ろされた。唯一の熱を失った喪失感に、土方は小さく喘ぐ。もっと、と言葉を紡ごうとして、その声は指よりも更に熱い温度に掻き消された。
「ン―――!!」
荒々しく唇が塞がれて、舌が絡められる。待ち望んでいた快楽に目の前がちかちかして気を失いそうになる。容赦なく吸い上げられて、歯が立てられて、声にならない悲鳴が喉もとを震わせた。いつの間にか銀時の両手は、重なり合ったふたつの性器を包んでいて、こちらからも目が眩むような激しい快感を与えられる。限界まで焦らされていた身体は易々と高められた。ニ、三度大きく扱かれれば、すぐに絶頂は訪れる。
「アア、ア、アア!!」
目の前が真っ白に染まって、平衡感覚も視界も全てが消え去る。土方の耳には、立てた爪が壁を傷つける鈍い音だけが鮮明に聞こえた。



「は、はぁ、はぁ…」
ほぼ同時に達していた土方と銀時は互いに身体を預けるようにずるずると座りこんだ。勢いよく噴出した精液は胸の辺りまで飛び散って服を汚していたが、処理をする気にもなれない。息を整えることですら、余韻に震える身体ではうまくいかず、びくびくと跳ねる身体を丸めて、土方はそっと呟いた。
「……やべェ、嵌まりそう」
「俺も…」
互いの肩に額を押し付けて、喉を震わせる。まるで子供のような笑い声が部屋に響き渡った。


春日 凪



好きなもの、むぎゅっと詰め込み。
指フェラ、焦らし、擦りあいっこ。(ロクなもんじゃない)

快楽遊戯