01.指名手配
自分でも驚くぐらいにアイツのことを探している。
もちろんアイツは俺とは比べようもないくらい多忙で、街角で偶然、なんてかなり確率が低いんだが、こうして俺がアンテナを張って歩いていれば、少しくらいは確率が上がるんじゃないかと思う。
だって、ホラ。
目の前から少し猫背気味に歩いてくるのはアイツじゃねぇ?
今日もいいことありそうだ。



02.煙草
「一本くれ」
素っ気ない布団の上で、これまた素っ気ない声音で男が言った。
「吸うのかよ?」
「昔な」
くちゃくちゃに乱れたシーツの上に2つの身体を放り投げて、たいして会話もしないまま煙を吐き出す。同じ匂いを纏っているのはこの瞬間だけで、片方はまた甘い匂いに戻るのだろう。
バラバラに横たわる2つの身体。
先程の行為のように、2本の紫煙が混ざり合った。
「エロいな…」
ああ、俺たちもぐちゃぐちゃに混ざり合いたいと、ぼやける天井を見て思った。



03.名前を呼んで
「ふざけるのも大概にしろよ」
「うん?」
「俺は多串じゃねェって何度言ったら分かるんだ?」
「あーまたその話ね」
「いい加減はっきりしろ。斬るぞ?」
一瞬にしてぴたりと当てられる冷ややかな温度は、もちろん土方の得物だ。銀時は降参のポーズをして、刀を退かせる。
「……今更恥ずかしくない?」
「は?」
「土方、なんて恥ずかしくて言えねェ」
「………」
「………」
「あー、俺、別に多串でいいわ」
土方、と言葉を紡いだ銀時の顔は何とも締まりのない顔をしていたのに。
――それが胸を擽るなんて、死んでも認めねェ。



04.チョコレートパフェ
「何が言いてぇの?」
昼食時を過ぎたファミレスは閑散としていた。他に見受けられるのは軽くお茶をしながら語り合う近所の奥様たち。彼女たちは自分たちの話題に夢中で、こちらの剣呑な雰囲気など気付きもしない。
「そのままの意味だろ。金輪際、お前とは縁を切る」
「もうセックスしないってこと?」
「無意味だろうが。男同士で…、何の関係もないお前と」
「本当に意味がないと思ってる?」
これでは堂々巡りだ。土方は、そう思った。
「あぁ。だから終わりだ」
「あっそ」
興味を無くしたように呟いた銀時の目は、濁っていて何も読みとれなかった。食べられることなく放置されたチョコレートパフェが、どろりと歪んだ。



05.無言
あいつはコミュニケーション能力が著しく欠如している。
こちらが伝えたいことを何度もスルーし、結局自分の言いたいことだけを言って無理矢理自分のペースに巻き込んでいく。 言葉のキャッチボールがなってないんだよ。我を通す前に、他人の話も聞くのが筋ってもんだろう。
こうして、いつもいつも俺はあいつにやりこめられて、悔しい思いをするハメになるのだ。

「…………」
「だから黙ってるなんて、可愛いなァ。土方くんは」
「可愛い、言うな!!」



06.護りたいモノ
土方はきっと俺には弱みを見せない。なぜなら彼は知っているからだ。
俺が何を護りたいかを。
そして俺もきっと土方には弱みを見せない。なぜなら俺は知っているからだ。
彼が何を護りたいかを。

それは交わることのない道かもしれない。だけど、それでもいい。
彼が、もしくは俺が、
護るべきモノを失いそうになったとき、そのときはきっと、隣で一緒に戦っているだろうから。



07.キスの味
「土方、今日、何食った?」
「あ?ただのどんぶりだよ。親子丼」
「うそつけェェェ!!口がマヨ臭ェんだよ!どうせ、親子丼土方スペシャルだろーが!?何だよ、それ。卵オン・ザ卵って何だ?卵に卵かけて食ってどうすんだよ!」
「うっせぇな!俺が何食おうが勝手だろ!?」
「お前な、エチケットとして大量にマヨ食ったあと、そのまま恋人に会うか、フツー?しねぇよ。普通しねぇって!!」
「あぁ?じゃあキスすんなよ。それなら気にならねェだろうが」
「…………」
「…………」
「別に何食べようがヒジカタくんの自由ですよね〜」
「………最低だな」



08.夕方のドラマの再放送
「あ」
壁に掛かった時計を見て、土方が小さく呟く。それに反応して俺も時計を見上げて、ああと肩を落とした。
口うるさい彼を丸め込んで、家に来るようになって一週間。ここまで来るのに俺がどれほどの努力を要したか、今思い出すだけでも泣けてくる。 けれど、天下の真撰組副長は、それだけで落ちるほど生半可ではなかった。
「じゃあな、帰るわ」
ドラマの再放送を目的に、足早と去っていく彼の後姿に溜息が零れる。今日もまた、ドラマに負けた。
「いつになったら時間を気にせず、一緒に居てくれるのかねぇ」
まだ先は長そうだ。



09.究極のバカ
俺に惚れたアイツと、アイツに絆された俺。



10.似たもの同士
「…………」
「…………」
キャンパス内で固まるふたりの男。
「なんでお前がその服持ってんだよォォォォ!!」
「うるせー!これは絶対俺が先に買った!これは絶対俺が先だァァァ!!」

「何アイツら、今時ペアルックかよ?」



11.きまぐれ
足元で黒猫がにゃあと鳴いた。
どこかの飼い猫か、首には小さな鈴がついていて、猫が頬を寄せるたびにちりんと響く。自分の可愛さを自覚しているんだろう。 小さな声でにゃあにゃあ鳴いて、餌を強請る。
お前ね、飼い主にだってそうやって媚びてるくせに、見知らぬ俺にも甘えてくるの?
「ダメダメ、銀さんちお金ないから」
そう告げると、黒猫は興味を失ったように足元から離れる。
「つれねー奴」
俺の隣で煙草をふかす男がこちらを睨んだ。



12.離してなんかやらない
こっから先は俺の間合いだ。無粋に飛び込んできた日にゃあ、
「離してなんかやんねぇぞ」
さあどうする、副長さん?



13.運命の赤い糸
彼の小指から伸びたそれは、数メートル先で重力に従ってだらりと垂れていた。
無情にも切断された糸の先は月光に照らされて、まるで涙の滴のように美しく煌いていて。
――拾うには惜しかった。



14.ベッドの上
俺の律動に合わせて漏れるのは、彼の掠れた声ではなくベッドのスプリングだ。安物のそれは劣情を煽るには煩すぎる。
もっと土方の声が聞きたい、そんな文句を言ったところ返ってきたのは
「そんだけ、お前が下手なんだ、ろッ…」
なんて素敵な煽り文句。
上等だよ。それならベッド以上に可愛く鳴いてもらおうか。



15.ひも無しバンジーをやるくらいの覚悟
そうやって足踏みしてる君を、俺はこっちに引きずり降ろそうと画策してる。
  ―階段下に立つ教師は白衣をはためかせて、そっと手を差し出した。
おいで。
  ―小さく口が動いて誘惑の言葉を紡ぐ。
そのままゆっくりと前に体重を掛ければいい。底は深くて、見えないだろうけど、きっと俺が下で抱きとめてあげるよ。
  ―眼下に広がる景色は、足を進めるたびに逆光で黒い影が差して何も見えなくなる。
それぐらいの愛情と度胸は持ってるつもりさ。
  ―踊り場に残されたのは、一足の上履きだった。



16.階段差
階段下に立つ教師は白衣をはためかせて、そっと手を差し出した。
  ―そうやって足踏みしてる君を、俺はこっちに引きずり降ろそうと画策してる。
小さく口が動いて誘惑の言葉を紡ぐ。
  ―おいで。
眼下に広がる景色は、足を進めるたびに逆光で黒い影が差して何も見えなくなる。
  ―そのままゆっくりと前に体重を掛ければいい。底は深くて、見えないだろうけど、きっと俺が下で抱きとめてあげるよ。
踊り場に残されたのは、一足の上履きだった。
  ―それぐらいの愛情と度胸は持ってるつもりさ。



17.無糖カップル
殺気を露わにして斬りかかってくる彼に、とてつもなく欲情する。
所詮、俺たちは人斬りで、命を懸けたあの戦場での高揚感は何よりの興奮材料だってことを知っている。だから、こうして刀を抜く。斬りかかる。
五感を総動員して相手の動きを読む。頭の先から足の指の一本一本までに、彼の視線を感じて下半身が熱くなった。きっと彼も興奮している。
振り下ろされた刃を木刀で横に払って、流れるようにそのまま右足をひっかけた。バランスを崩して倒れる身体をしっかりと抱きとめ、耳元で一言。
「スゲェ、気持ちいい」
にやりと口角を上げていやらしく笑う彼に、思いっきり噛みついてやった。



18.振り回される
「なあ…。こんなに頻繁に出会っちまうなんて、これ何か運命的なアレが働いてるような感じがしねぇ…?」
「…怖いこと言うなよ」
「……だよね。どう考えても俺らライバルポジションだよな?百歩譲って悪友止まりだよな??」
「……そのはずだ」
「それだけじゃ満足できないと何か抗えない大きな力が働いているような気がしてならないんだよ……」
「………」



19.見られてしまった
隠していた感情を暴かれた瞬間の相手の表情といったら、これほどないくらいに憎らしかった。 それでいてにやりと綺麗に笑うもんだから、俺としては斬り殺してやりたいのに抱き締めたいという相反する気持ちと闘う羽目になってしまって、その場に立ち尽くすしかなかったのだ。



20.惚れた弱み
「俺、お前の嫌いなところ100個言えるわ」
「でも好きなところは101個言えるんだろ?」
「…それ某ギャルゲーの台詞だろ」
「………」
「オタク。これ101個目だな」
「ちくしょう、俺の萌えを粉々に砕きやがった…」
「別に良いんだよ。嫌いなとこが101個あろうが200個あろうが。たぶん好きなとこ、もっとあるし」
「……!!」
「お前の行動って、頭より下半身に直結してるよな…」
「嫌いなとこ?」
「どっちかって言うと好きなところだ」



春日 凪




title 01